昨今の製造業は、コスト削減・開発期間の短縮・生産性向上といったさまざまな課題を抱えています。そういった課題を解消する技術として注目されているのが、3Dプリンターです。3Dプリンターは大きく樹脂と金属に分けられますが、近年では金属3Dプリンターの進化が目覚ましく、さまざまな業界で活用が進みつつあります。今回は、金属3Dプリンターを活用するメリットや主要な造形方式の特徴、活用事例などをご紹介します。
金属3Dプリンターとは
金属3Dプリンターは、金属粉末を材料として使用する3Dプリンターです。3D CADなどで制作した3Dデータをインプットすると、データ通りの立体的な造形物を自動で作ることができます。
3Dプリンターは2013年頃に大きなブームとなりましたが、当時は樹脂3Dプリンターの方が技術的に確立されていたこともあり、金属3Dプリンターの活用は限定的でした。しかし、近年では金属3Dプリンターの造形精度や速度が大幅に向上したこともあり、欧米を中心に実用化が進められています。
金属3Dプリンターを活用する主なメリットは次の通りです。
- 切削や鋳造といった従来の工法では実現できない複雑な形状でも造形できる
- 金型や治具が要らないため、多品種少量生産や一品モノの生産に適している
- 短期間で製作できるため、開発期間の短縮や柔軟な設計変更が実現する
金属3Dプリンターの主要な造形方式
金属3Dプリンターにはさまざまな造形方式があります。既存の方式を改良したり、新たな造形方式が生まれたりと、金属3Dプリンターの技術は日進月歩で進化し続けている状況です。ここでは、特に押さえておきたい主要な造形方式を4つご紹介します。
パウダーベッド(粉末床溶融結合)方式
パウダーベッド方式(粉末床溶融結合)は、金属3Dプリンターでは最も主流な造形方式です。金属粉末を敷き詰めたところにレーザーや電子ビームを照射し、熱で溶かしながら造形物を固めていきます。ほかの方式に比べて造形精度や強度が高い傾向にあり、最終製品としても採用実績も豊富です。また、材料の選択肢が豊富な点や、固まっていない材料を再利用できる点もメリットといえます。
一方で、微細な金属粉末を一層ずつ敷き詰めて固めていくため、造形時間が長くなりやすいことがデメリットです。また、造形後に固まっていない粉末を除去する必要があったり、表面の粗さが気になる場合は研磨が必要になったりと、後工程における手間が課題として挙げられます。
デポジション(指向性エネルギー堆積)方式
デポジション(指向性エネルギー堆積)方式は、上述したパウダーベッド方式と同じく金属粉末をレーザーや電子ビームによって固めていく方式です。パウダーベッド方式と大きく異なるのは、金属粉末をノズルから噴射するのと同時にレーザーや電子ビームを照射することで、それによって溶けた金属を積層して固めていきます。
装置内に金属粉末を敷き詰めなければならないパウダーベッド方式に比べると、高速で造形ができる、造形後に金属粉末の除去が不要である、といったメリットがあります。一方で、パウダーベッド方式よりも造形精度は低く、積層跡が目立ちやすいことがデメリットです。
デポジション方式では溶けた金属がそのままノズルから出てくるので、摩耗した部分に肉盛りするといった使い方もできます。これらの特徴から、比較的単純な形状の製品や大型の製品、金型や金属部品の補修などで幅広く活用されています。
バインダージェット方式
バインダージェット方式は、金属粉末にバインダーと呼ばれる液体結合材を噴射し、結合させながら造形する方式です。バインダーは不純物であることから、造形後に脱脂を行って除去する必要があります。脱脂後の造形物を炉に入れて焼結させると、ようやく製品が完成します。
バインダージェット方式のメリットは、造形時間の短さです。比較的新しい方式ですが、大量生産が必要な自動車業界などでの活用が期待されています。一方で、ほかの方式に比べると造形物の密度が低くなりやすく、耐久性の観点で課題があります。また、焼結する際に造形物が収縮するため、品質が安定しにくい点もデメリットです。
FDM(熱溶解積層)方式
FDM(熱溶解積層)方式は、もともと樹脂3Dプリンターにおける主要な方式でしたが、今では金属3Dプリンターにも採用されています。熱可塑性樹脂に金属粉末を混ぜた材料を使用し、熱で溶かした材料をノズルから噴射して一層ずつ積み重ねながら造形する方式です。
上述したバインダージェット方式と同様に、FDM方式も造形後の脱脂・焼結を経て製品が完成します。耐久性や造形後の収縮が課題となる点も同じですが、仕組みがシンプルなため装置自体の価格が比較的安く、初めて金属3Dプリンターを導入する企業や試作品の製作が目的の企業にとってはメリットが大きいといえるでしょう。
金属3Dプリンターの活用事例
金属3Dプリンターはすでにさまざまな業界で活用されており、製品として実用化された事例も数多くあります。ここでは、3つの業界における金属3Dプリンターの活用事例をご紹介します。
航空宇宙
多品種少量生産が中心の航空宇宙業界は、いち早く金属3Dプリンターの活用を始めた業界の一つです。航空機やロケットに使われる部品は高精度で複雑な形状をしているものが多い傾向にありますが、生産量が少ないため、従来の工法では多額のコストがかかるのが課題となっていました。
しかし、金属3Dプリンターであれば部品が1つだけであっても簡単に作ることができ、複雑な形状の部品も一度造形するだけで完成します。すでにジェットエンジンの燃料ノズルやタービンブレードなどの部品が金属3Dプリンターで作られており、コスト削減や開発期間の短縮を実現しています。
医療
医療業界においても、次のような背景から金属3Dプリンターの活用が積極的に進められています。
- 患者1人1人に合わせたオーダーメイド品の製作が求められる
- 複雑かつ立体的な形状の医療器具が多い
- 多品種少量なだけでなく、スピーディな製作も求められる
実際に、生体適合性の高い素材を使ったインプラント、オーダーメイドの手術器具、義肢の部品などが金属3Dプリンターで製作されています。特にインプラントに関しては、金属3Dプリンターならではの多孔質構造やメッシュ構造を採用することにより、製品の高性能化ができると期待されています。
自動車
自動車業界では近年、金属3Dプリンターの活用が急速に進められています。当初はモータースポーツ用の高機能な部品や試作品製造での活用が中心でしたが、徐々に量産部品としても活用されるようになってきました。すでに欧米の企業では、独自構造のタイヤで軽量化と強度アップを実現したり、3Dプリンターで小型EVのボディが製作されたりしています。また、生産が終了した旧モデルの保守部品を製作する際に、金属3Dプリンターを活用しようという動きも見受けられます。
これからの自動車業界では、今まで以上に軽量化による燃費向上や多品種少量生産が求められると考えられます。それらを実現するための手段の一つとして、金属3Dプリンターを活用する企業が増えていくでしょう。
まとめ
今回は最先端のものづくり技術である金属3Dプリンターについてご紹介しました。近年の技術革新によって、金属3Dプリンターの用途は大きく広がっています。3Dプリンターを使ったものづくりは、一時的なブームではなく新しいものづくりの形として確実に定着していくでしょう。
コメント