構造ヘルスモニタリング
「構造物」と言っても橋やトンネル、ダムなどの公共設備から、鉄道や船、飛行機といったものまで幅広い構造物が現代に欠かせないものとして存在しています。
しかし、いくら高い耐久性や安全性をもって建てられた構造物であっても、経年劣化の影響は防げません。
そんな構造物において重大なトラブルが引き起こされないように、近年注目されているのが「構造ヘルスモニタリング」です。
今回は構造ヘルスモニタリングとはどういったものか、構造ヘルスモニタリングにはどんな用途・使い道があるのか、ご紹介していきます。
構造ヘルスモニタリングとは?
構造ヘルスモニタリング(SHM)とは、構造物にセンサを取り付けて振動などを読み取り、信号処理手法を用いて構造物の損傷・劣化箇所の診断や予測を行う技術です。
新しい構造物にはもちろん、既存の構造物に対してもセンサを設置すれば応答波形から現在の状態も診断することができ、どれほどの補強が必要なのかを判断できます。
これまで構造物のメンテナンスではまず現場調査から始まり、すべて人の手や目視で確認していました。
しかし、それを自動化させることでメンテナンスにかかる時間短縮や人手の解消にもつながるでしょう。
4つの重要な技術
構造ヘルスモニタリングで重要となる技術は主に4つが挙げられます。
1つは振動や応力、歪みなどをリアルタイムで察知できるセンサです。
センサによって集められたデータを基に診断・予測をしていくため、構造ヘルスモニタリングはセンサがなければ始まりません。
2つ目は多くのデータを保管・運用するためのデータマネジメントです。
センサによって集めた情報をデータベース化し、保管して診断や予測に用いられます。
3つ目はデータを診断する技術です。
現在、診断予測を自動的に行うために逆解析技術は多くの提案があり、今後さらなる進歩を遂げていくと考えられています。
4つ目は診断結果の可視化です。
システムがデータを使って分析し、その結果を人間が理解できる形で表示する必要があります。
この技術に関しても実用化を目指すためには、どのように結果を表示すれば誰でも正確に把握できるようになるかといった議論が必要でしょう。
構造ヘルスモニタリングの用途・使い道
構造ヘルスモニタリングの実用化や普及は、将来的にも可能でしょう。
実際に普及された場合、どのような用途・使い道がなされるのでしょうか?
特に注目されているのは、公共設備における監視システムとしての役割です。
橋梁やトンネル、高圧水道、道路など、いわゆるインフラ設備に対して構造ヘルスモニタリングを用いれば、時間帯ごとで異なる負荷の計測や経年劣化などで不備が発生した箇所に、迅速かつ的確に修繕作業を施すことができます。
既に導入されている例としては、香港にある青馬大橋には約350以上のセンサが取り付けられ、24時間橋の構造的挙動を監視・測定しています。
他にも、ギリシャのリオアンティリオ橋には構造以外に交通もリアルタイムで監視できるよう100以上のセンサが取り付けられていたり、オーストラリアのシドニーハーバーブリッジには約2,400以上ものセンサを含む監視システム実装されたりしています。
このように、世界各国では既に橋の長期的な監視システムとして、構造ヘルスモニタリングを採用しているのです。
他にも、風力発電機におけるブレードやエネルギー変換を行う部分にも構造ヘルスモニタリングを導入することで、海上風力発電機など遠方にある発電機も監視できるでしょう。
また、鉄道や船舶、飛行機にセンサを設置すれば長期的な監視も可能となり、甚大なトラブルのリスク回避にもつながり、構造ヘルスモニタリングは非常に幅広い産業で活躍できると言えるでしょう。
構造ヘルスモニタリングに活用される光ファイバーセンサ
構造ヘルスモニタリングにおいて、変化を読み取るためのセンサは多くの研究開発がなされています。
様々なセンサが開発されている中で、ナノシードが注目したのは「光ファイバーセンサ」です。
光ファイバーセンサとは、センサ部分に光ファイバーや光学部品を用いたセンサです。
光ファイバーは温度や歪みなどをリアルタイムで計測でき、比較的設置条件が厳しい環境下にも置けます。
また、センサは電磁誘導における影響もなく、電源工事も不要なので環境への配慮やコストの抑制などのメリットも挙げられます。
安全性と利便性の高さを兼ね備えた光ファイバーセンサは、今後構造ヘルスモニタリングで重要な役割を果たしていくことでしょう。
今回は構造ヘルスモニタリングについてご紹介してきました。
世界各国で主に橋を長期的に監視するためのシステムとして導入されているところもありますが、それでもまだ一般的な普及には遠い状況です。
今後発展させるためには、今回ご紹介した構造ヘルスモニタリングにおける4つの重要な技術のさらなる開発が必要となってくるでしょう。
橋梁モニタリング事例 2歩道橋
コペンハーゲンの有名なスイミングスタジアム、Bellahøj Svømmehalでは、家族連れが水泳を楽しんでいる間、ElastiSenseの変位センサが24時間365日、プールの構造安定性と安全性を監視するために裏方として稼働しています。
このプールの底面にある構造物の接合部には、DS-50センサが取り付けられており、その伸縮を測定しています。接合部の変位計測は、荷重(水)や温度・湿度の変化による構造体の歪みに関する重要な情報を供給しています。
この情報により、施設のオーナーは接合部の潜在的な亀裂や劣化を事前に把握し、予知保全を行うことができます。
DS50センサは、ワイヤレスのバッテリー駆動のデータロガーに接続され、測定データをクラウドに送信します。これにより、オーナーや建設会社がリモートでアクセスできるようになります。
構造ヘルスモニタリング事例 2教会
壁の亀裂の拡大を監視するために、ElastiSenseの変位センサ「DSシリーズ」が、2022年12月にノルウェーの教会に設置されました。
城や教会などの歴史的建造物は、構造的な劣化が起こりやすいため、予知保全や倒壊防止のために継続的に状態を監視する必要があります。
当社のノルウェーのパートナーであるSmart Sensor Systems社は、当社のセンサと同社の無線データロガー(iBridge)で構成されるプラグア&プレイ構造のヘルスモニタリングシステムを開発しました。
このシステムは、構造物の劣化(亀裂の拡大)を継続的に監視し、データをクラウドに送信します。これにより、施設のオーナーは、構造物の健全性評価と予知保全のためにアクセスできます。
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