人間の脳を再現?研究開発が進むニューロモフィックの活用分野を紹介

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技術の発展に伴ってコンピュータやカメラの性能は飛躍的に向上しましたが、徐々に既存の仕組みの限界を感じるようになってきました。一方で、私たち人間は現在のコンピュータやカメラにはできない複雑な処理を少ないエネルギーで容易に実現しているという事実があり、そこからヒントを得る「ニューロモーフィック」という技術が注目されています。
そこで今回は、ニューロモーフィックの意味や注目される理由、どのような分野で活用されているかをご紹介していきます。

1. ニューロモーフィックとは?

ニューロモーフィック(neuromorphic)とは、人間の脳などの構造を模す技術のことです。既存のコンピュータやカメラに比べると私たち人間の脳は非常に優れた性能を持っており、同時並行で数多くの処理を実行することができます。そんな人間の脳の仕組みを分析し、模倣することで性能を高めようという動きが世界各国で広がりました。
人間ができる複雑な処理として、自動車の運転を例に考えてみましょう。自動車を運転するためには、素早く動いている自動車の中から周囲の環境を瞬時に判断し、適切な操作をしなければなりません。また、安全に運転をしながら同乗者と会話をしたり、音楽を聞いたりすることもできます。このように同時並行で数多くの処理をすることは世界一のスーパーコンピュータであっても難しく、人間の脳が非常に高性能であることが分かります。
また、人間の脳は驚くほど高効率であることも分かっています。スーパーコンピュータが消費する電力が約30メガワットもあるのに対し、人間の脳が消費するエネルギーは約20ワットしかありません。昨今では環境問題が深刻化しており、消費電力の低減が大きな課題となっていますが、ニューロモーフィックがその課題の解決方法になるかもしれないと期待されています。

2. ニューロモーフィックの活用分野

ニューロモーフィックは世界各国で研究開発が進んでおり、既に実用化されている製品もあります。ここでは、どのような分野でニューロモーフィックが活用されているのかを紹介します。

3. ニューロモーフィックコンピュータ

脳の神経細胞であるニューロンを模した電子回路で構成されるコンピュータのことを、ニューロモーフィックコンピュータと呼びます。
人間の脳にはおよそ1000億のニューロンがあるとされており、それぞれが相互に接続しあってネットワークを構築し、記憶や情報処理を行います。ニューロモーフィックコンピュータではそのようなネットワーク構造を電子回路で再現しており、複数の動作を並列で処理したり、負荷の高い処理を分散して対応することで性能を高めています。また、一部の電子回路がエラーを起こしても他の電子回路が代わりに動作することができるため、信頼性が高いという特徴も持ちます。
ニューロモーフィックコンピュータは、主にAIやIoTといった先端技術と組み合わせて活用されています。特に膨大なデータを基に学習を続けて適切な処理をしなければならないAIが進化するためには欠かせない技術です。現在のAIはまだまだ柔軟性に欠けており、あらかじめ決められたルールに則って考えることしかできません。しかし、人間の脳に近い構造を持つことでさまざまな要素を考慮した上で最適な解を出せるようになり、より応用力の高いAIが実現できると期待されています。

4. ニューロモーフィックビジョン

ニューロモーフィックビジョンは、なぜ人が膨大な量の視覚情報を瞬時に処理できるのかに注目し、人の視神経や脳神経からヒントを得て開発された画像処理技術です。この技術を使ったデバイスはイベントカメラとも呼ばれています。
従来の画像処理技術では、カメラが1秒間に30フレーム(30fps)といった一定の間隔で撮影した画像データがすべて出力されていたため、データ量が大きくて処理に時間がかかる、消費電力が多くなる、といった課題がありました。しかし、イベントカメラは被写体の動きや周囲の環境変化により輝度の変化(イベント)が起きた部分のみを検出し、非同期でデータを出力する仕組みになっています。そのため、従来のセンサに比べて次のような優れた特徴を持っているのです。
●マイクロ秒単位の高分解能
●データ量の削減
●低消費電力
イベントカメラは動きを検出するのに特化した画像処理技術であり、マシンビジョンやロボット、IoT、モビリティなどの分野で活用されています。

5. ニューロモーフィックの今後の動向

ニューロモーフィックは人間の脳などの構造を模す技術ですが、人間の体には解明されていない部分がたくさんあります。そういった意味では、ニューロモーフィックは不完全な研究分野であり、まだまだ発展する余地があるといえるでしょう。
また、ニューロモーフィックビジョンでは人間の目からヒントを得ましたが、聴覚や触覚、嗅覚といったようにニューロモーフィックでヒントを得られそうな分野は他にもあります。今後はそれらの分野に向けた研究開発が進むかもしれません。

今回は、ニューロモーフィックとは何かやニューロモーフィックの活用分野についてご紹介しました。ニューロモーフィックはコンピュータやカメラなどの電子デバイスが既存の仕組みでの限界を乗り越え、大幅な進化を果たすために重要な技術です。ニューロモーフィックコンピュータやニューロモーフィックビジョンのように既に実用化されている製品もあり、各分野での活用が進んでいます。自社の課題を解決できる製品があるかもしれないので、取り入れてみるのもよいでしょう。

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