昨今では、私たちの身の回りの至るところでロボットの姿を見るようになってきました。人手不足や高齢化社会といった課題を抱える日本では、今後もロボットの社会進出が進んでいくと考えられています。
しかし、従来から活躍している硬い素材で作られたロボットでは、実現が難しい用途も多々あります。そこで注目が集まっているのが、「ソフトロボティクス」という新しいロボット技術です。
今回は、ロボットの新しい可能性を切り開いているソフトロボティクスについて解説していきます。
ソフトロボティクスとは
ソフトロボティクスとは、柔らかいロボットを扱うロボット工学の研究分野の一つです。ソフトは「softness(柔軟性)」を意味しており、ロボットの素材や動作を柔らかくすることで、従来のロボットでは実現が難しかった用途での活用を目指しています。
昨今では、既にあらゆるシーンでロボットが活躍していますが、そのほとんどは「硬い」ロボットです。たとえば、工場などで働く産業用ロボットは金属のような硬い素材で作られており、力強くて正確な動作を実現しています。しかし、「硬い」ロボットには次のような課題もあるのが実情です。
- 人にぶつかるとケガをさせてしまう恐れがある
- 柔軟性のある動きが求められる作業ができない
- 柔らかいモノや割れやすいモノを扱うと壊してしまう可能性がある
- 環境の変化に柔軟に対応できない
こういった「硬い」ロボットが抱える課題を解決できると期待されているのが、ソフトロボティクスです。ソフトロボティクスでは、柔軟性のある素材で作られたソフトロボットによって、生物のようにしなやかな動きを実現します。また、センサーやプログラムによってロボットを高度に制御することで、繊細な動きも実現できるのです。
ソフトロボティクスの用途
ソフトロボティクスはさまざまな用途での活用が期待されています。代表的な用途をいくつかご紹介します。
製造業
工場で働いている産業用ロボットの多くは、安全性を確保するために人と隔離された柵の中で稼動しています。また、食品のような柔らかいモノを安定してつかむのは難しく、あらゆる作業の自動化が進んだ今でも、人手に頼らざるを得ない状況です。
しかし、人とソフトロボットであれば、より近い距離で一緒に作業できるようになるかもしれません。すでに安全センサーを搭載した協働ロボットが導入されていますが、ソフトロボティクスによってさらに安全性を高められるでしょう。
また、柔らかいロボットであれば、通常のロボットでは扱いにくいモノも扱えます。食品のように柔らかいモノや、ワイングラスのように壊れやすいモノもロボットが扱えるようになれば、より工場の自動化が進んでいくと考えられます。
医療・介護
ソフトロボティクスは医療現場での活用も期待されています。たとえば、現在の手術支援ロボットの多くは金属製の鉗子を用いており、手術の内容によっては適用できない場合があります。しかし、柔らかい生体素材を使ったソフトロボットであれば、より多くの手術にロボットを適用できるようになり、遠隔医療の普及に貢献します。
また、介護分野のサービスロボットやパワーアシストスーツにおいても、ソフトロボティクスの活用が期待されています。触れるモノや人を傷つけずに動き、身体の不自由な人をサポートするソフトロボットの開発が行われており、既に実用化されている事例もあります。
災害現場
ソフトロボットは、その柔らかい体を生かして人が入れない狭い空間にも入り込めます。また、落下による衝撃などを和らげることもできるので、過酷な環境下でも止まることなく稼働できます。このような特徴を持つソフトロボットを災害現場での被災者の発見・救助に活用できないかという動きがあり、実際にミミズやゴキブリから着想を得たソフトロボットの開発が行われました。
また、災害現場以外にも、狭い場所の清掃や点検、深海や惑星の探査など、さまざまなシーンでソフトロボットは活躍できると考えられています。
ソフトロボティクスの関連技術
ソフトロボティクスでは、柔軟性のあるロボットを生み出すためにさまざまな技術が導入されています。主な技術をいくつかご紹介します。
ソフトハンド
ロボットがモノをつかむためには、ロボットハンドが欠かせません。従来のロボットハンドは金属や硬い樹脂で作られており、モノを強くつかむのは得意ですが、人の手のように優しくつかむのには向いていませんでした。
ソフトハンドは、ロボットハンドを柔らかい素材で作る技術です。たとえば、弾力性のある樹脂やゴムを使ったソフトハンドであれば、食品のような柔らかいモノであっても優しくつかむことができます。また、つかむのではなく、丸ごと包み込んで持ち上げるソフトハンドも開発されています。
人工筋肉
ソフトロボットには、形状としての柔らかさだけでなく、動作の柔らかさも求められます。それを実現する技術の一つが、人工筋肉です。人工筋肉は、上述したパワーアシストスーツなどですでに実用化されています。
人工筋肉とは、細い樹脂やゴムなどを束ねることで生物の筋肉組織を模倣したものであり、電気や空気圧によって筋肉の動きを制御します。人工筋肉を使ったソフトロボットは、従来のロボットのような直線的な動きだけでなく、しなやかで柔らかい動きができるようになるのです。
フレキシブルセンサー
ソフトロボットを高度に制御するためには、各種センサーの働きが不可欠です。しかし、柔らかいロボットに搭載するためには、センサーにも柔軟性が求められます。そこで導入されているのが、柔軟に形を変えられるフレキシブルセンサーです。
たとえば、ロボットハンドの先端にフレキシブルな触覚センサを埋め込み、つかむモノの感触を確かめながら動作を制御するという研究が進んでいます。この技術によって、ソフトロボットはあらゆるモノを壊すことなく扱えるようになるでしょう。
まとめ
今回は、ソフトロボティクスについてご紹介しました。これまでのロボットにはなかった「柔らかさ」を取り入れることで、ロボットは私たちにとってさらに身近な存在になっていくでしょう。すでに実用化されているソフトロボットもありますが、まだまだ研究開発段階のモノも多く、これから本格的に普及していくと考えられます。ロボットの新たな可能性を見せてくれる、ソフトロボティクスに注目していきたいものです。
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