ロボット技術が進展した現在では、あらゆる作業をロボットが担うようになりました。従来は単独であらゆることを実現できる高性能なロボットが注目される傾向にありましたが、ロボット1台だけで行うには不向きな作業も数多くあります。そこで新たに注目されているのが、生物の群れのように集団で動く「群ロボット」です。今回は、群ロボットとはどういったものかや、用途について詳しく解説していきます。
画像:Author/Serge Kernbach License/CC-BY-SA-3.0
1. 群ロボットとは?
群ロボットとは、ある作業を行うために協調して動作する複数台のロボットのことです。もしくは、それらのロボットを制御する技術のことを指す言葉としても用いられています。「スワームロボット」や「スワームロボティクス」という言葉もありますが、ほとんど同じ意味だと思って問題ないでしょう。
群ロボットは、単独でさまざまな機能を持つ高性能なロボットではなく、比較的単純なロボットの群れを自律制御させることによって作業の目的を達成しようとします。この考え方は、自然界の昆虫や動物の群れが集団で行動することによって個々の能力ではできないことを実現している点から着想を得たものです。
例えば、アリがエサを巣に運ぶ様子をイメージしてみましょう。アリは自分の体重の50倍もの重さのモノを運べるほど力持ちではありますが、1匹のアリが運べるモノには限界があります。そのため、自分が見つけたエサの場所を他のアリに伝えて呼び寄せ、力を合わせて運ぶことで大きなエサを巣に持ち帰っているのです。
このように、1台のロボットでは実現できないことを集団のロボットで実現しようとするのが、群ロボットの基本的な考え方になっています。
2. 群ロボットで必要とされる技術
群ロボットが集団として協調して動作するためには、いくつか必要とされる技術があります。
1つ目は、群知能と呼ばれる人工知能です。上述したアリのように、各個体は単純な行動規則を持ちつつ、周囲の個体や環境に応じて行動するように設計した人工知能を備えることで、複数のロボットを自律制御します。
2つ目は、自己位置推定の技術です。群ロボットは自律移動することが前提であるため、自分が現在どこにいるのか、位置を正確に知ることが必要不可欠です。群ロボットの場合、自身が搭載するセンサなどから得る情報だけでなく、他のロボットと互いの位置情報を教え合うことによって高精度な自己位置推定を実現しています。
最後に、コミュニケーションの技術です。生物の場合は五感やフェロモンを使いますが、群ロボットでは主に電波や赤外線通信を使ってコミュニケーションを行います。ロボット同士が自身の行動や位置を教えたり、指示を出したりすることで集団行動ができるのです。
3. 群ロボットの用途
共通の作業に取り組むロボットの集団である群ロボットには、集団であるがゆえの3つのメリットがあるとされています。
●柔軟性:負荷の分散や環境に応じた担当変更が容易であること
●頑強性:一部のロボットが故障しても他のロボットが代わりになれること
●拡縮性:ロボットの台数が増減しても安定して機能すること
これらのメリットにより、群ロボットは探索や搬送、同時分業が得意と言われています。では、実際にどのような用途で群ロボットの活躍が期待されているかをご紹介します。
4. 被災地での救助システム
群ロボットを災害救助で使用する研究が行われています。大規模な地震などによって発生する広大な災害現場を、単独のロボットが探索することは非常に困難です。しかし、群ロボットであれば互いの位置情報を交換しながら効率よく探索することで、素早く被災者を見つけ出して救助できると考えられています。
5. 物流センターでの搬送
大規模な物流センターでは、群ロボットを導入して大幅に人件費を削減する動きが見られます。広大な敷地内に保管された膨大な種類の荷物を見つけ出し、搬送する業務を人の手で行うのは大変なことです。また、物流業では人手不足が深刻化しつつあります。そういった課題を解消するための最適な手段として、群ロボットによる搬送業務の自動化が進められています。
6. 大規模な工事や環境調査
広大な土地の整地や埋め立てをしたり、鉱物資源を採掘したりするのは過酷な作業です。このような作業も従来は人の手で行われてきましたが、今後は群ロボットが代替することが期待されています。
ほかにも、海の環境調査を群ロボットによって行う事例もあります。個々のロボットにセンサを搭載して群れで移動させれば、広大な範囲を短期間で調査できるでしょう。最近では環境問題への注目が集まっているため、需要が高まっていくと考えられます。また、宇宙空間での資源調査のために群ロボットを開発している企業もあります。
今回は、群ロボットについて解説しました。
群ロボットが実用化されている分野もありますが、まだまだ新しい技術でありさまざまな研究や実証実験が進められています。どんなに高性能なロボットを導入しても実現できなかったことが、群ロボットを導入すれば簡単に実現できるかもしれません。ロボットを導入する際の選択肢の1つとして、群ロボットも含めてみてはいかがでしょうか。
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